2010/09/03

上衣腫の分子生物学的ステージング

Molecular staging of intracranial ependymoma in children and adults

小児および成人の頭蓋内上衣腫における分子生物学的ステージング

Clin Oncol. 2010 Jul 1;28(19):3182-90.

要旨

目的:現在のステージング方法において、頭蓋内上衣腫の生物学的な性質は、予想が困難である。上衣腫の現行の分類基準を補完する、分子生物学的ステージングを作成するために、上衣腫細胞において高頻度で見られる遺伝子異常を同定し、その予後に与える影響を評価した。

対象と方法:スクリーニングコホートとして、122人の上衣腫患者の標準的治療を行う前の検体を用い、比較ゲノミックハイブリダイゼーションアレイ(array CGH)を行った。予後因子としての可能性があるDNAコピー数異常について、170人の独立した上衣腫患者コホート殻の検体を用い、FISH法によって、確認を行った。コピー数異常は、臨床情報、組織病理学診断結果、そして生存データとの’関連を検討した。

結果:スクリーニングコホートにおいて、1q(1番染色体長腕)の増加およびCDNN2A遺伝子(p16癌抑制遺伝子)のホモ欠失が、もっとも有力で独立した予後不良因子であった。対照的に、染色体9、15q、18の増加と染色体6の減少は、予後良好因子であった。これらの結果に基づいて、3つの遺伝学的リスク群からなる、分子生物学的ステージングシステムを作成し、確認のためのコホートにおいても、予後予測の正確さが確認された。likelihuud ratio testや多変量Cox regression解析によっても、これらの新たな遺伝学的マーカーを追加することで、既存の予後因子よりも予後予測の正確さが向上することが示された。

結論:上衣腫において、ゲノム異常は病気の進行と生存率に対する、強力かつ独立したマーカーである。遺伝的マーカーをを、既に確立された臨床的および組織病理学的要素に追加することにより、治療結果の予測を向上させることができる可能性がある。本分析は通常のパラフィン固定標本においても行うことができるため、人口ベースのコホートを対象にした多施設臨床研究において、これらのマーカーの有効性を確認することは、すぐにでも可能である。

コメント:上衣腫は小児の脳腫瘍のなかで3番目に多く、決して満足のいく治療成績とはいえない脳腫瘍である。生存率の向上に寄与すると考えられる化学療法がまだ見つかっておらず、手術と放射線療法が治療の中心である。しかし、放射線治療が若年患者に与える影響は大きく、放射線療法を減量、または省略する治療研究の対象を選ぶことは、緊急の課題である。本研究が明らかにした、予後不良マーカーは他の研究でも示唆されており、有望性が高い。また、このような研究からさらに詳細な予後不良遺伝子異常が見つかれば、新たな治療標的としての期待も高まる。

リンク http://bit.ly/bJ7C4e

2010/08/04

米国国立がん研究所の情報サイト

「がん情報サイト」の説明を転機

「がん情報サイト」は、日本で唯一National Cancer Institute(米国国立がん研究所)とLicense契約している、がんの最新治療情報や治療成績、臨床研究の情報、がんに用いられる標準治療薬や支持療法薬といった、がんに関する最新かつ包括的な情報を配信するサイトです。

非常に信頼度が高いがんの最新情報をまとめた有料サイトです。日本語の訳も正確で、アップデートも頻繁に行われています。

下のリンクから、小児脳腫瘍のページに行けます。
小児脳腫瘍の全般的な情報から、各腫瘍タイプ別の治療方法が、最新の標準治療を中心に詳しく記述してあります。

http://bit.ly/aNux7z

概論について、本ブログ独自の翻訳を提供します。

A childhood brain or spinal cord tumor is a disease in which abnormal cells form in the tissues of the brain or spinal cord.

こどもの脳や脊髄の腫瘍は、異常な細胞が、脳や脊髄の組織をつくって増える疾患です。

There are many types of childhood brain and spinal cord tumors. The tumors are formed by the abnormal growth of cells and may begin in different areas of the brain or spinal cord. Tumors may be benign (noncancerous) or malignant (cancerous). Together, the brain and spinal cord make up the central nervous system (CNS).

こどもの脳脊髄腫瘍には、たくさんの種類があります。これらの腫瘍は、細胞の異常な増殖によって、脳や脊髄のいろいろな場所に発生します。腫瘍は良性(非がん性)のこともあれば、悪性(がん性)のこともあります。中枢神経系(CNS)は、脳と脊髄からなる器官系統です。

The brain controls many important body functions.

脳は、多くの重要なからだの機能を制御します。

The brain has three major parts:

脳には、三つの主要部位があります。

• The cerebrum is the largest part of the brain. It is at the top of the head. The cerebrum controls thinking, learning, problem solving, emotions, speech, reading, writing, and voluntary movement.

• 大脳は脳の中で一番大きな部位で、頭頂部に位置しています。大脳は。思考、学習、問題解決、感情、会話、読字、そして随意運動を、制御します。

• The cerebellum, which is in the lower back of the brain (near the middle of the back of the head), controls movement, balance, and posture.

• 小脳は、脳の後方(後頭部の真中あたり)に位置し、動作、バランス、姿勢を制御します。

• The brain stem connects the brain to the spinal cord. It is in the lowest part of the brain (just above the back of the neck). The brain stem controls breathing, heart rate, and the nerves and muscles used in seeing, hearing, walking, talking, and eating. 。

• 脳幹は、脳と脊髄を接続し、脳の一番下部(首の後ろすぐ上)に位置します。脳幹は、呼吸、心拍、さらには、視覚、聴覚、歩行、会話、食事に用いる神経や筋肉を制御します。

The spinal cord connects the brain with nerves in most parts of the body.

脊髄は、脳と体中の神経をつなぐ役割を果たします。

The spinal cord is a column of nerve tissue that runs from the brain stem down the center of the back. It is covered by three thin layers of tissue called membranes. These membranes are surrounded by the vertebrae (back bones). Spinal cord nerves carry messages between the brain and the rest of the body, such as a signal from the brain to cause muscles to move or from the skin to the brain about the sense of touch.

脊髄は、脳幹から始まり、背中の中央を通って下までのびる、柱状の神経組織です。三層の膜とよばれる薄い組織によって包まれています。これらの膜はさらに、脊椎(背骨)によって囲まれます。脊髄神経は、脳とそれ以外のからだの部分のあいだの、情報のやり取りを行います。たとえば、脳からの筋肉を動かす命令を伝えたり、皮膚からの触覚を脳に伝えたりします。

Brain and spinal cord tumors are a common type of childhood cancer.

脳脊髄腫瘍は、小児がんのなかでは、頻度が高いもののひとつです。

Although cancer is rare in children, brain and spinal cord tumors are the third most common type of childhood cancer, after leukemia and lymphoma. Brain tumors can occur in both children and adults. Treatment for children is usually different than treatment for adults. (See the PDQ treatment summary on Adult Brain Tumors for more information.)

がんは子供には稀な病気ですが、脳脊髄腫瘍は、白血病とリンパ腫についで、3番目に頻度が高い小児がんです。脳腫瘍は、こどもにも成人にも発生します。通常こどもに対する治療は、成人に対する治療とは異なります。(成人の脳腫瘍についてはPDQ治療サマリーを参照)

This summary describes the treatment of primary brain and spinal cord tumors (tumors that begin in the brain and spinal cord). Treatment of metastatic brain and spinal cord tumors, which are tumors formed by cancer cells that begin in other parts of the body and spread to the brain or spinal cord, is not covered in this summary.

このサマリーは、原発性脳脊髄腫瘍(脳または脊髄から発生する腫瘍)の治療について記述しています。体のほかの部位で発生した腫瘍が脳や脊髄に拡がる、転移性脳脊髄腫瘍の治療については、本サマリーでは取り扱いません。

There are different types of childhood brain and spinal cord tumors.

こどもの脳脊髄腫瘍にはいろいろな種類があります。

Childhood brain and spinal cord tumors are named based on the type of cell they formed in and where the tumor first formed in the CNS.

小児脳脊髄腫瘍は、もとになる細胞の種類と腫瘍が発生する中枢神経系の部位によって、命名されています。

2010/03/20

放射線療法後の再発髄芽腫に対する大量化学療法プロトコールによる治療成績

High-dose carboplatin, thiotepa, and etoposide with autologous stem cell rescue for patients with previously irradiated recurrent medulloblastoma

前治療として放射線照射を受け、再発した髄芽腫患者に対する、自己造血幹細胞移植による骨髄救済を伴う大量カルボプラチン・チオテパ・エトポシド療法

Neuro Oncol. 2010 Mar;12(3):297-303

要旨

前治療として放射線照射を受けた髄芽腫の再発の致死率は非常に高い。放射線療法の既往があり、転移ステージMo-M3[*1]の再発患者のうち、プロトコール参加前までに、手術や導入化学療法で、腫瘍量を最小限まで減らすことができた(minimal disease)患者を対象とした。治療は、カルボプラチン(carboplatin: Calvert 計算式[*2*3]にて、AUC 7mg/ml min, max500mg/m2/d)をday -8 から -6、チオテパ(thiotepa: 300mg/m2/d)と(etoposide: 250mg/m2/d)をday -5 から -3まで投与し、自己造血幹細胞移植による骨髄救済(sutologous stem cell rescue: ASCR)をday 0に行った。移植時年齢7.6-44.7歳(中央値13.8歳)の25人の患者が本治療を受けた。うち3人(12%)の患者は、治療関連毒性(多臓器不全2人、アスペルギルス感染とVOD[*4]合併1人)により、移植から30日以内に死亡した。腫瘍の再々発が、16人でみられた(移植後中央値8.5ヶ月: 2.3-58.5ヶ月)。6人の患者が移植後中央値151.2ヶ月(127.2-201.6ヶ月)の時点で無病生存中。Kaplan-Meier曲線による推定によると、移植後の中央値生存期間は26.8ヶ月(95%信頼区間: 11.9-51.1ヶ月)であり、移植後10年無病生存率および10年生存率はともに24%(95%信頼区間: 9.8-41.7%)であった。再発治療開始前の転移が無い(M-0 と M-1以上の比較)、再発時の組織診断が行われていない、術後前治療が放射線治療のみ(放射線治療+化学療法との比較)、という要因は無病生存率の増加と関連していなかった(それぞれP=0.33, 0.34, 0.27)。救済療法として追加の放射線療法を受けた患者(5人、P=0.07)および、再発病変が導入化学療法に反応性を示した患者(10人、P=0.09)において、無病生存率が高い傾向をみとめた。本救済療法が、放射線療法の既往がある再発髄芽腫患者の一部に、長期無病生存をもたらした。追加の放射線療法は、良好な成績に関連している可能性がある。

[*1] 髄芽腫の転移による分類 M0: 転移なし M1: 髄液中のみ腫瘍細胞確認 M2: 原発巣外の頭蓋内転移 M3: 脊髄への転移 M4: 脳脊髄外再発(主として骨髄)
[*2] 腎機能に基づく投与量修正:投与量(mg/body) = 目標AUC×(GFR + 25)
[*3] AUC(血中濃度曲線下面積) area under the blood concentration time curve
[*4] VOD: veno-occlusive disease: 肝中心静脈閉塞症

コメント

1998年に著者らがJ Clin Oncolに報告した、再発髄芽腫に対する、大量化学療法プロトコールの追加報告である。今回の分析では、より予後が悪いと考えられる、前治療で放射線治療を受けた群にお絞って分析をした。(発症時3歳未満などで、放射線療法を回避して再発した患者に対する、第一選択の救済療法は手術+放射線療法)24%という長期生存率は、決して満足のいく数字ではないし、初期治療から大量化学療法が行われるようになった現在の再発患者に、かならずしも該当しない救済療法ではある。しかし、放射線療法後の再発髄芽腫において、追加放射線照射が有効であることを示唆し、大量化学療法が腫瘍の化学療法抵抗性を克服するという原則を改めて証明した意味で、貴重な報告であろう。

脳への再放射線照射や追加照射に対しては、異論があることは当然であり、非常にリスクの高い治療である。しかし、期待できる生存率が20%台の、再発髄芽腫のような疾患における最大のリスクは再々発である。あるリスクをとらないことが、最大のリスクをとることになることを、腫瘍医は常に意識しなければならない。

リンク:http://bit.ly/aPDI3v

2010/03/19

非定型脈絡叢乳頭腫

Atypical choroid plexus papilloma: clinical experience in the CPT-SIOP-2000 study.

非定型脈絡叢乳頭腫:国際共同臨床研究CPT-SIOP-2000の結果より

J Neurooncol. 2009 Dec;95(3):383-92

要約

非定型脈絡叢乳頭腫(atypical choroid plexus papilloma: APP)とは、新たに分類された、脈絡叢腫瘍(choroid plexus tumor: CPT)の中間悪性度亜型であり、臨床成績はまだ報告されていない。今回、われわれは現在進行中のCPTの臨床研究、CPT-SIOP-2000に登録された患者群の最初の分析結果を報告する。

化学療法を要する患者の国際登録と無作為化試験が2000年に始まった。APPに対しては、最大限外科的に摘出することが推奨された。術後、完全摘出できた患者は経過観察を行い、一方不完全摘出または転移を伴うAPP患者には、6コースの化学療法(エトポシドとビンクリスチンに加え、カルボプラチンまたはシクロフォスファミドを投与)が行われた。リスクに応じて、放射線療法は3歳以上の患者のみに行われた。

中央診断で確認されたCPT患者106人中、30人がAPP、42人が脈絡叢乳頭腫(choroid plexus papilloma: CPP)34人が脈絡叢癌(choroid plexus carcinoma: CPC)であった。APP患者(中央年齢0.7歳)はCPPやCPCの患者(ともに中央年齢2.3歳)に比べて、有意に低年齢であった。完全摘出は68人(64%)の患者で可能であった(CPP:79%, APP:63%, CPC:47%)。診断時に転移が認めたのは、APPの17%、CPPの5%、CPCの21%であった。術後化学療法を受けた9人のAPP患者全員において、化学療法2コース後に早期の反応を認めた:完全奏効2人、部分奏効4人、不変3人。経過観察群の15人については、1人に再発が見られたが、現時点で全員生存中である。化学療法群においては、診断時に転位を認めた、不完全摘出後の1人が腫瘍死した。

APPの診断は組織学的に定義されるが、腫瘍増殖マーカーであるKi-67/Mib-1と、腫瘍抑制タンパクp53の陽性率中央値は、3つの亜型で増加しており、CPPよりもAPPさらにAPPよりCPCで陽性率が高かった。これは、CPTの亜型が、悪性度に応じた一般的な分類であることを示唆する。

この順序は、研究プルトコールに則って治療を受けた92人の患者の臨床成績によっても、改めて確認することができる。5年無病生存率は、39人のCPPで92%、24人のAPPで83% 、そして29人のCPCで28%であった。同様の治療成績の順序は、全106人の登録患者の無病生存率においても認められた。APPの化学療法への反応は良好であった。APPがCPPとCPCの中間に位置することは、臨床データからも示された。

コメント

稀な小児脳腫瘍である、脈絡叢腫瘍の国際多施設治療研究である、CPT-SIOP-2000 http://choroidplexustumors.com の中間報告である。本腫瘍のように希少な小児脳腫瘍の診療成績を向上させるには、国際的な共同治療研究を行うしかないが、CPT-SIOPはその成功例といえる。中央診断率の高さにも注目したい(全登録症例133中、116症例で中央診断)。

本報告は、CPT-SIOP-2000の包括的な最終報告ではない。2006年に新たに提唱された中間悪性度群非定型脈絡叢乳頭腫(atypical choroid plexus papilloma: APP, WHO Grade 2)の臨床像と組織像、さらには免疫組織染色による生物学的特性をに焦点を当てた分析が、主眼となっている。APPが臨床的にも組織学的にも、そしておそらく生物学的にも、良性腫瘍と考えられる脈絡叢乳頭腫(choroid plexus papilloma: CPP, WHO Stage1)と、明らかに悪性の脈絡叢癌(choroid plexus carcinoma: CPC, WHO Stage3)の中間に位置する、明確な亜群であることが、示された。

CPT-SIOP-2000の、主要な目的は、化学療法レジメンにおいて、カルボプラチンとシクロフォスファミドを比較することであるが、その結果はまだ明らかになっていない。しかし、ハイリスク群(完全摘出できないAPPやCPC)の治療成績は、まだまだ満足できるものでないことは、この中間報告が示している。

CPT-SIOP-2009という次の研究が始動しており、より多くの薬剤が標準治療とされる組み合わせ(エトポシド、ビンクリスチン、カルボプラチン、シクロフォスファミド)と比較される予定である。

リンク: http://bit.ly/b5waTI

2010/03/09

脳幹グリオーマのゲノム網羅的解析

Whole-Genome Profiling of Pediatric Diffuse Intrinsic Pontine Gliomas Highlights Platelet-Derived Growth Factor Receptor α and Poly (ADP-ribose) Polymerase As Potential Therapeutic Targets.



脳幹グリオーマ(びまん性中心性橋部神経膠腫)のゲノム網羅的解析は、血小板由来成長因子受容体PDGFRαおよび、ポリ(ADP-リボース)合成酵素PARP1が、治療標的である可能性を示唆する


J Clin Oncol 2010 28 (8): 1337


目的
びまん性中心性橋部神経膠腫(DIPG)は、もっとも悲惨な小児悪性腫瘍のひとつであり、効果的な治療法が存在しない。治療研究の成果が出ない主要な原因として、脳幹腫瘍の生物学的特性がテント上に発生する成人の高悪性度グリオーマと同一であろうという前提があげられる。この小児の腫瘍をより特異的に標的とした治療薬を開発するためにDIPGそのものの生物学的特性を、よく理解する必要がある。そこで、我々は欠如している知識を埋めるべく、今回始めて、一連のDIPG症例に対して、高解像度の一塩基多型(SNP)マイクロアレイによる分析を行った。

患者および方法
これまで再多数となる、11検体(9例は剖検標本、2例は治療前生検標本)が、SNPアレイ(Affymetrix 500Kまたは6.0)にハイブリダイゼーションされた。本研究は、当施設の倫理委員会で承認された。すべてのマイクロアレイ結果は、定量的PCR、FISH法、マイクロサテライト分析によって確認された。

結果
DNAコピー数異常の分析結果、DIPGでは、小児テント上高悪性度グリオーマとは異なる、頻繁に認められるコピー数異常を認めた。36パーセントのDIPGで、血小板由来成長因子受容体α遺伝子(PDGFRA, 4-18コピー)のコピー数異常を認め、全例でPDGFR-αの発現を認めた。ポリADPリボースポリメラーゼ-1(重合ADPリボース鎖をタンパク質に付加する酵素: poly (ADP-ribose) polymerase:PARP-1)の軽度のコピー数増加が3症例において認められた。遺伝子経路解析によって、ヘテロ接合性欠失(Loss of Heterozygosity: LOH)は、DNA修復経路に集中して認められることが判明した。

結論
われわれの知る限り、初めての小児DIPGにおける包括的で高解像度のゲノム解析結果である。われわれは、PDGFR経路が高頻度に関与しており、またPARP-1の増幅とともにDNAの修復経路の欠失が認められることを発見したが、このことは、この悲惨な腫瘍に対する治療標的として、生物学的にも可能性が高い2つの分子を示唆している。

コメント
現在、有効な治療法が無く、ほぼ100%致死性の脳腫瘍である、びまん性脳幹グリオーマは、その部位から摘出どころか、画像上典型的な場合は生検も禁忌となっている。治療成績が最悪でありながら、生物学的研究すら行えないという、非常に不幸な脳腫瘍であるが、熱心な研究者と献身的な患者家族の理解によって、この貴重な研究が行われた。テント上悪性グリオーマと生物学的に異なる腫瘍であることは、これまでの新薬を試す臨床試験がことごとく無効であったことを裏付けている。今後は、本研究と同様な研究を重ねて、この腫瘍の生物学的特性上、効果が期待される薬物を優先的に試すべきである。

リンク:http://bit.ly/aQjI8V

2010/02/05

統合的ゲノミクス分析によって同定された、膠芽腫の亜型

Integrated Genomic Analysis Identifies Clinically Relevant Subtypes of Glioblastoma Characterized by Abnormalities in PDGFRA, IDH1, EGFR, and NF1

統合的ゲノミクス分析によって同定された、PDGFRA,、IDH1、EGFRおよびNF1遺伝子異常を特徴として持つ、臨床的にも有用な膠芽腫の亜型

Cancer Cell. 2010 Jan 19;17(1):98-110.

要旨

多形性膠芽腫(GBM)細胞において頻繁に認められるゲノム異常の一覧を、癌ゲノムアトラスネットワーク(The Cancer Genome Atlas Network)が、最近報告した。我々は、遺伝子発現に基づいた強力な方法によって、GBMを前駆ニューロン系(Proneural)、ニューロン系(Neural)、古典系(Classical)、間葉系(Mesenchymal)に分子生物学的に分類した。さらに、複数の種類のゲノミクスデータを統合し、がん細胞の遺伝子変異とDNAのコピー数変化のパターンを確立した。EGFR、NF1、PDGFRA/IDH1遺伝子の異常と発現パターンによって、それぞれ古典系、間葉系、前駆ニューロン系の各亜型が規定される。正常脳組織の遺伝子発現の特徴から、GBM亜型と各経組織系統との強い関連が示唆された。さらに、より強化された治療法に対する反応は、亜型ごとによって異なり、そのような治療は、古典系でもっとも有益である一方、前駆ニューロン系では有益性をみとめなかった。我々の研究によって、GBMの分子生物学的層別化のために、ゲノミクス(遺伝子構造の網羅的解析)とトランスクリプトミクス(遺伝子発現の網羅的解析)を統合する、今後の研究に重要な示唆を与える基盤がつくられた。

意義
本研究は、これまでのGBM分類研究を進展させた。既知の亜型とNF1、PDGFRA/IDH1という特有の遺伝子異常を関連付けた。また、EGFR異常と正常p53を特徴とする亜型を含めた、2つの新たな亜型を同定した。さらに、亜型は組織発生学的な特徴を有し、最近のマウスによる研究結果とあわせて、腫瘍の起源となる別の細胞の存在を示唆している。これらをあわせると、本件急は標的治療の研究の基盤を気づいたといえる。テモゾロミドと放射線療法による、膠芽腫の一般的となった治療は、生存率の有意な増加ももたらした。分析結果によると、強力な治療による、生存率の改善は亜型によって差があり、古典系と間葉系でみられる有意な死亡までの期間の延長効果は、前駆ニューロン系では認められない。


コメント
複数のゲノミクスを統合的に分析し、より正確な分子生物学的分類を行い、さらに生物学的な特徴を見出して、あらたな治療に結びつける試みは、現代の癌研究のメジャーな手法として定着した。本研究は、成人GBMを対象にした研究であるが、小児のハイグレードグリオーマへの応用は十分に可能である。各亜系に特徴的な遺伝子異常や発生学的背景から、標的治療の臨床試験を選択された患者群で行えば、標的薬を効率よくスクリーニングし、臨床現場に投入することが可能になる。一方で、小児脳腫瘍な稀な脳腫瘍をさらに細分化していくと、各亜型の患者発生数が非常に少なくなり、単一施設や小規模な共同研究では、臨床試験が困難になるという懸念がある。小児がんの分子生物学的分類の研究を進める一方で、国際的な超多施設共同研究の枠組みを、構築していかなければ、せっかくの知見が臨床に応用されないということになる。

リンク:http://bit.ly/aajSj3

頭蓋咽頭腫に対する手術療法

Efficacy and safety of radical resection of primary and recurrent craniopharyngiomas in 86 children.

積極的に根治手術を行った、原発性および再発性小児頭蓋咽頭腫86例における、効果と安全性の検討

J Neurosurg Pediatr. 2010 Jan;5(1):30-48.

目的

原発性および再発性頭蓋咽頭腫の最適な治療法について、まだ議論が分かれるところである。積極的な根治術と、限局的な摘出術に放射線療法を組み合わた治療法では、病勢コントロール率および生存率は同等である。再発性腫瘍に関するデータは非常に少ない。著者らは、原発性および再発性小児頭蓋咽頭腫に対する、積極的根治術の経験を報告し、両群の治療結果を比較した。

方法
1986年から2008年にかけて、上席著者によって合計103回の頭蓋咽頭腫摘出術が行われた、21歳未満の患者86人を対象に、後方視的解析を行った。すべての患者に対して、根治を目指した摘出術が治療方針であった。経過の追跡が不可能であった2人は解析から除外した。手術時の平均年齢は9.6歳、平均観察期間は9.0年であった。

結果
原発性腫瘍の患者57人全員に対して、肉眼的全摘術(gross total resection, GTR)が行われた。再発性腫瘍の患者で、GTRが行われた率は、優位に低かった(29人中18人、62%)。3人の患者が周術期に死亡した(3%)。GTR後、71人中14人(20%)において腫瘍の再発を認めた。著者らの施設への初診時に原発性腫瘍を認めた患者群は、全生存率および無病生存率が、優位に高かった。神経学的、内分泌学的、視機能的、および機能的予後については、原発性腫瘍群と再発腫瘍群の間に、 優位な差は認めなかった。全生存率および無病生存率を悪化した要素は、亜全摘(再発腫瘍群のみ)、5cm以上の腫瘍径、水頭症の合併、脳室腹腔シャント(VP shunt)の必要性であった。放射線療法の既往と腫瘍サイズはともに、再手術時の不完全摘出のリスク要因であった。

結論
頭蓋咽頭腫の手術に熟達した脳外科医による初発時点での積極的な根治術によって、病勢コントロールと治癒のもっとも高い可能性が得られ、副作用と後遺症も許容範囲であると、著者らは考える。再発性腫瘍において、GTRを行っても再発の可能性は残り、GTRを得るのは、とくに大きくて放射線療法の既往のある腫瘍において、より困難であるが、それでも再発性頭蓋咽頭腫に対して、積極的根治術は可能であり、副作用と後遺症のリスクも原発性腫瘍に対する手術と同等である。

コメント
単一施設、単一術者からの、20年以上にわたる頭蓋咽頭腫に対する積極的根治術を徹底的に治療方針とした成績報告である。前頭側頭開頭(pterional approach)による治療成績は非常に良好で、本腫瘍の治療に基本が手術療法であることに異論はない。腫瘍の大きさや位置、発症時の症状などによって、最適な治療法や術式を理論的に述べることは可能である。しかし、現実的に本腫瘍のような稀で手術の難易度が高い脳腫瘍の治療は、施設や術者の経験に依存することが多い。異なる治療法や術式を比較する、臨床試験を行うことは、現実的ではない。

しかしながら、新しいアプローチや治療法が本腫瘍には必要である。腫瘍が組織学的に良性であるため、生命予後は良好であるが、再発を繰り返す患者や、治療後の後遺症に悩む患者は少なくない。現在の放射線治療や化学療法による治療には限界があるが、非侵襲的で副作用の少ない治療法の開発へのたゆまぬ努力は続けなくてはならないであろう。良性腫瘍であっても、腫瘍の生物学的特性を研究し、特異的な薬物療法を探求することも、今後の重要な課題であろう。

リンク: http://bit.ly/d13ppu

2010/02/03

頭蓋内胚細胞腫瘍に対する、化学療法

Primary chemotherapy for intracranial germ cell tumors: results of the third international CNS germ cell tumor study.

頭蓋内胚細胞腫瘍に対する、化学療法を中心とした戦略:第3期国際中枢神経胚細胞腫瘍治療研究の結果報告


Pediatr Blood Cancer. 2010 Mar;54(3):377-83.

背景
中枢神経系の胚細胞腫瘍の治療に関しては、まだ議論のあるところである。本研究の目的は、化学療法単独による治療の効果と、副作用などの影響を、放射線療法と比較して、明らかにすることである。

方法
2001年1月から2004年12月の間に、新たに中枢神経胚細胞腫と診断された患者が、リスクに応じて階層化され、異なった2種類の化学療法レジメンで治療された。4ヶ月から24.5歳までの25人の患者が階層化された。シクロフォスファミドとエトポシドの2剤組み合わせと、カルボプラチンとエトポシドの2剤組み合わせを交互に合計4-6サイクル行うレジメンAは、限局性で髄液と血液中の腫瘍マーカーが正常値の胚腫(ジャーミノーマ)の低リスク群(LR)に対して行われた。一方、カルボプラチンとシクロフォスファミドとエトポシドの3剤組み合わせを、合計4-6サイクル行うレジメンBは、髄液または血液中のβHCG値が上昇しているが50mlU/ml以下のジャーミノーマの中間リスク群(IR)と、非ジャーミノーマ性悪性の要素が生検で証明されたMMGCT群、髄液または血液中のアルファフェトプロテイン(AFP)が陽性の群、髄液または血液中のβHCG値が50mlU/m以上に上昇している群からなる高リスク群(HR)に対して行われた。

結果
11人の患者がLR群、2人がIR群、12人がHR群に階層化された。17人(68%)において、2コースの化学療法後に、19人(76%)において2コースの化学療法後に、画像上の完全寛解および、マーカーの低下が観察された。11人が中央値30,8ヵ月後に再発した。そのうち8人が再発後に放射線療法を受けた。6年無病生存率および生存率は、それぞれ45.6%と75.3%であった。

結論
本研究で行われた集中的化学療法レジメンは、放射線療法を含んだ治療レジメンよりも、治療効果が低いことが証明された。現時点において、中枢神経胚細胞腫瘍の標準的治療は、純粋なジャーミノーマにおいては、放射線療法を、単独治療または化学療法の併用のどちらかのかたちで、含むレジメンであり、非ジャーミノーマでは、放射線療法と化学療法の併用レジメンである。

コメント
化学療法に対して感受性の高い胚細胞腫瘍を、放射線療法なしで治癒ようとする試みは、本研究においても不成功であった。放射線治療は非常に有効で、短期的には安全な治療法でもあり、現時点で標準治療であることは異論がない。しかし、成長期の脳の中心に高い放射線量を与えることによる、知能や情緒への長期的な影響は非常に懸念される。とくに、放射線治療による生存率が90%を超えるジャーミノーマにおいて、一部の患者で放射線療法が不要なことは、証明されている。しかし残念ながら、治療前にどの患者に放射線治療が必要かという予測は、現時点で不可能である。臨床研究だけで、この問題に答えるのは限界である。生物学的な研究を進め、本腫瘍の性質を解明し、臨床データと照らし合わせて、放射線治療が不要な群の予測することとと、副作用の強い細胞障害的化学療法に代わる標的薬を発見することが、今後の課題であろう。

リンク:http://bit.ly/bByFDz

2010/01/26

米国がん統計から分析する、小児グリオーマの生存率および予後因子

Outcome and prognostic features in pediatric gliomas: a review of 6212 cases from the Surveillance, Epidemiology, and End Results database.

小児グリオーマの生存率および予後因子
-米国SEER統計に登録された6212症例の検討

Cancer. 2009 Dec 15;115(24):5761-70.

背景:
小児グリオーマは稀で、均一でない腫瘍群である。米国の国立がん研究所のがん統計(SEER)によって、これらの腫瘍の臨床的特徴および予後因子についての大規模な分析が可能である。

方法:
SEERに登録された、1973年から2005年の間にグリオーマと診断された20歳未満の6212人の患者のデータを、4年齢群(<1歳、1-3歳、3-5歳、5-20歳)に分けて分析した。

リンク bit.ly/6rzrNo

2010/01/20

3歳未満乳幼児における髄芽腫治療

Treatment of early childhood medulloblastoma by postoperative chemotherapy and deferred radiotherapy.

術後化学療法と遅延放射線療法による若年乳幼児期髄芽腫の治療

Neuro Oncol. 2009 Apr;11(2):201-10. Epub 2008 Sep 25

要旨
3歳未満乳幼児の髄芽腫において、術後化学療法による放射線治療遅延効果を検証し、予後予測因子を調べるため、1987年から1993年にかけてHIT-SKK'87プロトコールに登録された、3歳未満乳幼児における髄芽腫を調査した。これらの患児は、術後から3歳時点または再発時に全脳全脊髄照射を受けるまでの間、全身化学療法を受けた。術後に残存腫瘍を認めた患児および、遠隔転移をみとめた患児に対しては、維持療法の前に寛解導入療法を行った。29名の患児(中央年齢1.7歳;中央観察期間12.6年)が分析可能対象となった。肉眼的転移を認めなかった患児における10年無病生存率(PFS)および生存率(OS)は、完全摘出の場合52.9%±12.1%(PFS)、58.8±11.9%(OS)、不完全摘出の場合55.6%±16.6%(PFS)、66.7%±15.7%(OS)であった。それに対して、肉眼的転移を認めた患児においては、0%(PFS)、0%(OS)であった。線維形成性(desmoplastic)または広範囲結節性(extensive nodular)の組織像を呈した9名の患児の生存率は、典型的髄芽腫像(classic medulloblastoma)を呈した20名の患児の生存率よりも有意に良好であった:10年PFS 88.9%±10.5% vs 30.0%±10.3% p=0.003, OS 88.9%±10.5% vs 40.0%±11.0% p=0.006。化学療法中に腫瘍の進行を認めた12名中11名は典型的髄芽腫であった。本プロトコールによって治療された患児の治療終了後の知能指数は、放射線療法を受けなかった、その後のプロトコールHIT-SKK'92に登録された患児よりも、低かった。HIT-SKK87'およびHIT-SKK'92の両プロトコールを合計した72名の患児において、典型的髄芽腫組織像、遠隔転移および男性が、PFSおよびOSの独立した悪化危険因子であった。生存率に関しては、線維形成性または広範囲結節性の組織像を示す若年乳幼児期髄芽腫において、首尾よく全脳全脊髄照射を遅らせることができた。線維形成性または広範囲結節性の組織像は、良好な予後に強く寄与する、独立した因子である。生存者における神経認知機能低下は防ぐため、全脳全脊髄照射を避ける治療概念が目下の問題であるが、組織学的亜分類を十分に考慮しなくてはならない。

コメント
ドイツの多施設共同臨床研究の報告。全脳全脊髄照射が髄芽腫にとって、重要な治療手段であることに疑いはない。一方で、乳幼児とくに3歳未満の患児の重要な発達段階の脳への放射線治療は、認知機能に重大な後遺症を生じることも確実である。術後に化学療法を最大限行い、放射線治療をできる限り遅延させるという戦略は、一定の生存率が得られる一方で、認知機能障害は到底許容できるものではない。髄芽腫の中にはいくつかのサブタイプが存在し、組織学的予後良好群である、線維形成性または広範囲結節性の組織型では、今後放射線療法を省略した科学療法プロトコールが試されるであろう。また、生物学的な性質が明らかになれば、より効果的で副作用の少ない治療が、髄芽腫の分子生物学的サブタイプごとにテーラーメードされる時代も近づいているといえる。良好な生存率と認知機能の両立のためには、基礎研究及び臨床研究のさらなる発展が不可欠である。

リンク: http://bit.ly/7Y0BFM

2010/01/10

髄芽腫に対する分子標的治療

Treatment of Medulloblastoma with Hedgehog Pathway Inhibitor GDC-0449

ヘッジホッグ経路阻害薬GDC-00449による髄芽腫の治療: 一例報告

N Eng J Med. 2009 Sep 17;361(12):1173-8. Epub 2009 Sep 2.

要旨
髄芽腫は、小児においてもっとも頻度の高い悪性脳腫瘍である。ヘッジホッグシグナル経路の異常な活性化が、一部の髄芽腫の発生に関与していると、強く示唆されている。複数の治療法に抵抗性での転移性髄芽腫の26歳男性患者に対し、新しいヘッジホッグ経路阻害薬GDC-00449による治療が行われた。一過性ではあるが、急速な腫瘍の縮小と症状の緩和効果がみられた。本治療前に採取された腫瘍検体の分子生物学的検査結果から、ヘッジホッグシグナル伝達の重要な負の制御因子である、patched homolog 1 (PTCH1) 遺伝子における、ヘテロ接合性の消失(Loss of heterozygosity: LOH)と、遺伝子変異が腫瘍細胞で起こっていたことが示唆された。

コメント
髄芽腫のゲノミクス解析により、髄芽腫の分子遺伝生物学的に複数のサブタイプに分類され、サブタイプの臨床的な性質や治療への反応性なども、分析が進んできている。分子学的サブタイプ分類の最終目的は、腫瘍の性質に合わせた、最適のオーダーメード治療法を提供することである。分子標的治療薬の、オーダーメードがん治療への応用が期待されている。髄芽腫において、ヘッジホッグシグナル経路の異常な活性化を示すサブタイプが存在することは、複数の報告から明らかになっている。今回、成人症例における臨床試験外での例外的使用という条件ではあるが、ヘッジホッグシグナル経路に対する分子標的が髄芽腫に対して、一定の効果を示したことは、手術、放射線治療、細胞障害性化学療法による集学的治療に抵抗性を示したり、治療後再発をしたケースへの有望な治療法となる可能性を示したといえる。また、一定の長期生存および治癒率を見込める一方で、非常に副作用と晩期障害が強い現在の標準治療に取って代わる、毒性の低い治療法となる可能性も秘めている。

リンク:http://bit.ly/5th9Ad

2010/01/09

小児がん長期生存者に発症した、2次性原発脳脊髄腫瘍

Survival After Second Primary Neoplasms of the Brain or Spinal Cord in Survivors of Childhood Cancer: Results From the British Childhood Cancer Survivor Study

小児がん長期生存者に発症した、2次性原発脳脊髄腫瘍の生存率:英国小児がん長期生存者研究からの報告

J Clin Oncol. 2009 Dec 1;27(34):5781-7. Epub 2009 Sep 28.

要旨

目的: 脳脊髄腫瘍の生存率は低く、脳腫瘍の種類、年齢、悪性度、治療、治療前要因、部位、腫瘍の大きさなどに左右される。すべての種類の二次性原発脳脊髄腫瘍の生存率と、それに寄与する因子について調査した。

対象/方法: 英国小児がん長期生存者研究は、17,980人の5年以上の長期生存者の人口ベースの長期フォローアップ研究である。小児がん長期生存後に発症した二次性原発脳脊髄腫瘍患者の、5年間相対生存率を計算し、多変量COX回帰分析によって生存率寄与因子を求めた。

結果: 合計で247名の二次性原発脳脊髄腫瘍を発症した若年成人患者が存在した。うち137名が髄膜腫、73名がグリオーマであった。髄膜腫発症後の5年生存率は男女に違いがなかった(男性84.0%; 95%CI 72.6-91.1%、女性81.7%; 95%CI 69.9-33.7%)。グリオーマでは男女合わせた生存率が19.5% (95%CI 8.6-33.7%)であった。多変量分析によって治療を受けた年代(P=0.04)、悪性度(P=0.03)、遺伝的リスク(P=0.03)が髄膜腫発症後の生存率の寄与因子であった。一方グリオーマでは、悪性度が有意に生存率に寄与した(P<0.001)。

結論: 我々の調査結果は、若年成人における二次性原発グリオーマの生存率が低いことを明らかにした。一方、二次性原発髄膜腫の生存率は良好であった。我々の調査は、二次性原発脳腫瘍の発症リスクの高い小児がん長期生存者、特に小児急性リンパ性白血病または小児脳腫瘍患者に対する、MRIスクリーニングの臨床における必要性を示唆する。

コメント:小児がんの治療成績が向上し、長期生存者が増加しているが、晩期障害は大きな問題である。遺伝的素因と発癌リスクのある治療という、ふたつの大きな要因がある小児がん患者の二次がん発生リスクは高い。なかでも、白血病の中枢神経再発予防のための全脳照射を受けた生存者と原発脳腫瘍の治療のために放射線療法を受けた生存者において、二次性原発脳腫瘍のリスクは高い。本研究では、約18000人が登録された、長期生存者データベースから、少なくとも247人の二次性原発脳脊髄腫瘍が発生したことになる。二次性グリオーマの予後は、同世代で発症する一次性グリオーマより悪い。元々の遺伝的素因、限られた治療オプションなどがその原因であろう。髄膜種に関しては、発症率は高いものの、生存率は一次性腫瘍と大きく変わらなかった。最近のプロトコールおいては、白血病の中枢神経再発予防としての全脳照射を、回避するようになったので、白血病生存後の二次性原発脳腫瘍の発生数は減少すると思われるが、多くの悪性脳腫瘍治療において、放射線療法は不可欠であり、今後も二次性原発脳腫瘍ha発生する。長期にわたるMRIスクリーニングの有用性は検討に値する。一方で、低悪性度グリオーマにおいては、化学療法や手術療法を最大限活用して、できる限り放射線療法を回避する努力が必要である。

リンク: http://bit.ly/4FCCgY