2010/02/05

頭蓋咽頭腫に対する手術療法

Efficacy and safety of radical resection of primary and recurrent craniopharyngiomas in 86 children.

積極的に根治手術を行った、原発性および再発性小児頭蓋咽頭腫86例における、効果と安全性の検討

J Neurosurg Pediatr. 2010 Jan;5(1):30-48.

目的

原発性および再発性頭蓋咽頭腫の最適な治療法について、まだ議論が分かれるところである。積極的な根治術と、限局的な摘出術に放射線療法を組み合わた治療法では、病勢コントロール率および生存率は同等である。再発性腫瘍に関するデータは非常に少ない。著者らは、原発性および再発性小児頭蓋咽頭腫に対する、積極的根治術の経験を報告し、両群の治療結果を比較した。

方法
1986年から2008年にかけて、上席著者によって合計103回の頭蓋咽頭腫摘出術が行われた、21歳未満の患者86人を対象に、後方視的解析を行った。すべての患者に対して、根治を目指した摘出術が治療方針であった。経過の追跡が不可能であった2人は解析から除外した。手術時の平均年齢は9.6歳、平均観察期間は9.0年であった。

結果
原発性腫瘍の患者57人全員に対して、肉眼的全摘術(gross total resection, GTR)が行われた。再発性腫瘍の患者で、GTRが行われた率は、優位に低かった(29人中18人、62%)。3人の患者が周術期に死亡した(3%)。GTR後、71人中14人(20%)において腫瘍の再発を認めた。著者らの施設への初診時に原発性腫瘍を認めた患者群は、全生存率および無病生存率が、優位に高かった。神経学的、内分泌学的、視機能的、および機能的予後については、原発性腫瘍群と再発腫瘍群の間に、 優位な差は認めなかった。全生存率および無病生存率を悪化した要素は、亜全摘(再発腫瘍群のみ)、5cm以上の腫瘍径、水頭症の合併、脳室腹腔シャント(VP shunt)の必要性であった。放射線療法の既往と腫瘍サイズはともに、再手術時の不完全摘出のリスク要因であった。

結論
頭蓋咽頭腫の手術に熟達した脳外科医による初発時点での積極的な根治術によって、病勢コントロールと治癒のもっとも高い可能性が得られ、副作用と後遺症も許容範囲であると、著者らは考える。再発性腫瘍において、GTRを行っても再発の可能性は残り、GTRを得るのは、とくに大きくて放射線療法の既往のある腫瘍において、より困難であるが、それでも再発性頭蓋咽頭腫に対して、積極的根治術は可能であり、副作用と後遺症のリスクも原発性腫瘍に対する手術と同等である。

コメント
単一施設、単一術者からの、20年以上にわたる頭蓋咽頭腫に対する積極的根治術を徹底的に治療方針とした成績報告である。前頭側頭開頭(pterional approach)による治療成績は非常に良好で、本腫瘍の治療に基本が手術療法であることに異論はない。腫瘍の大きさや位置、発症時の症状などによって、最適な治療法や術式を理論的に述べることは可能である。しかし、現実的に本腫瘍のような稀で手術の難易度が高い脳腫瘍の治療は、施設や術者の経験に依存することが多い。異なる治療法や術式を比較する、臨床試験を行うことは、現実的ではない。

しかしながら、新しいアプローチや治療法が本腫瘍には必要である。腫瘍が組織学的に良性であるため、生命予後は良好であるが、再発を繰り返す患者や、治療後の後遺症に悩む患者は少なくない。現在の放射線治療や化学療法による治療には限界があるが、非侵襲的で副作用の少ない治療法の開発へのたゆまぬ努力は続けなくてはならないであろう。良性腫瘍であっても、腫瘍の生物学的特性を研究し、特異的な薬物療法を探求することも、今後の重要な課題であろう。

リンク: http://bit.ly/d13ppu

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