2010/03/20

放射線療法後の再発髄芽腫に対する大量化学療法プロトコールによる治療成績

High-dose carboplatin, thiotepa, and etoposide with autologous stem cell rescue for patients with previously irradiated recurrent medulloblastoma

前治療として放射線照射を受け、再発した髄芽腫患者に対する、自己造血幹細胞移植による骨髄救済を伴う大量カルボプラチン・チオテパ・エトポシド療法

Neuro Oncol. 2010 Mar;12(3):297-303

要旨

前治療として放射線照射を受けた髄芽腫の再発の致死率は非常に高い。放射線療法の既往があり、転移ステージMo-M3[*1]の再発患者のうち、プロトコール参加前までに、手術や導入化学療法で、腫瘍量を最小限まで減らすことができた(minimal disease)患者を対象とした。治療は、カルボプラチン(carboplatin: Calvert 計算式[*2*3]にて、AUC 7mg/ml min, max500mg/m2/d)をday -8 から -6、チオテパ(thiotepa: 300mg/m2/d)と(etoposide: 250mg/m2/d)をday -5 から -3まで投与し、自己造血幹細胞移植による骨髄救済(sutologous stem cell rescue: ASCR)をday 0に行った。移植時年齢7.6-44.7歳(中央値13.8歳)の25人の患者が本治療を受けた。うち3人(12%)の患者は、治療関連毒性(多臓器不全2人、アスペルギルス感染とVOD[*4]合併1人)により、移植から30日以内に死亡した。腫瘍の再々発が、16人でみられた(移植後中央値8.5ヶ月: 2.3-58.5ヶ月)。6人の患者が移植後中央値151.2ヶ月(127.2-201.6ヶ月)の時点で無病生存中。Kaplan-Meier曲線による推定によると、移植後の中央値生存期間は26.8ヶ月(95%信頼区間: 11.9-51.1ヶ月)であり、移植後10年無病生存率および10年生存率はともに24%(95%信頼区間: 9.8-41.7%)であった。再発治療開始前の転移が無い(M-0 と M-1以上の比較)、再発時の組織診断が行われていない、術後前治療が放射線治療のみ(放射線治療+化学療法との比較)、という要因は無病生存率の増加と関連していなかった(それぞれP=0.33, 0.34, 0.27)。救済療法として追加の放射線療法を受けた患者(5人、P=0.07)および、再発病変が導入化学療法に反応性を示した患者(10人、P=0.09)において、無病生存率が高い傾向をみとめた。本救済療法が、放射線療法の既往がある再発髄芽腫患者の一部に、長期無病生存をもたらした。追加の放射線療法は、良好な成績に関連している可能性がある。

[*1] 髄芽腫の転移による分類 M0: 転移なし M1: 髄液中のみ腫瘍細胞確認 M2: 原発巣外の頭蓋内転移 M3: 脊髄への転移 M4: 脳脊髄外再発(主として骨髄)
[*2] 腎機能に基づく投与量修正:投与量(mg/body) = 目標AUC×(GFR + 25)
[*3] AUC(血中濃度曲線下面積) area under the blood concentration time curve
[*4] VOD: veno-occlusive disease: 肝中心静脈閉塞症

コメント

1998年に著者らがJ Clin Oncolに報告した、再発髄芽腫に対する、大量化学療法プロトコールの追加報告である。今回の分析では、より予後が悪いと考えられる、前治療で放射線治療を受けた群にお絞って分析をした。(発症時3歳未満などで、放射線療法を回避して再発した患者に対する、第一選択の救済療法は手術+放射線療法)24%という長期生存率は、決して満足のいく数字ではないし、初期治療から大量化学療法が行われるようになった現在の再発患者に、かならずしも該当しない救済療法ではある。しかし、放射線療法後の再発髄芽腫において、追加放射線照射が有効であることを示唆し、大量化学療法が腫瘍の化学療法抵抗性を克服するという原則を改めて証明した意味で、貴重な報告であろう。

脳への再放射線照射や追加照射に対しては、異論があることは当然であり、非常にリスクの高い治療である。しかし、期待できる生存率が20%台の、再発髄芽腫のような疾患における最大のリスクは再々発である。あるリスクをとらないことが、最大のリスクをとることになることを、腫瘍医は常に意識しなければならない。

リンク:http://bit.ly/aPDI3v

2010/03/19

非定型脈絡叢乳頭腫

Atypical choroid plexus papilloma: clinical experience in the CPT-SIOP-2000 study.

非定型脈絡叢乳頭腫:国際共同臨床研究CPT-SIOP-2000の結果より

J Neurooncol. 2009 Dec;95(3):383-92

要約

非定型脈絡叢乳頭腫(atypical choroid plexus papilloma: APP)とは、新たに分類された、脈絡叢腫瘍(choroid plexus tumor: CPT)の中間悪性度亜型であり、臨床成績はまだ報告されていない。今回、われわれは現在進行中のCPTの臨床研究、CPT-SIOP-2000に登録された患者群の最初の分析結果を報告する。

化学療法を要する患者の国際登録と無作為化試験が2000年に始まった。APPに対しては、最大限外科的に摘出することが推奨された。術後、完全摘出できた患者は経過観察を行い、一方不完全摘出または転移を伴うAPP患者には、6コースの化学療法(エトポシドとビンクリスチンに加え、カルボプラチンまたはシクロフォスファミドを投与)が行われた。リスクに応じて、放射線療法は3歳以上の患者のみに行われた。

中央診断で確認されたCPT患者106人中、30人がAPP、42人が脈絡叢乳頭腫(choroid plexus papilloma: CPP)34人が脈絡叢癌(choroid plexus carcinoma: CPC)であった。APP患者(中央年齢0.7歳)はCPPやCPCの患者(ともに中央年齢2.3歳)に比べて、有意に低年齢であった。完全摘出は68人(64%)の患者で可能であった(CPP:79%, APP:63%, CPC:47%)。診断時に転移が認めたのは、APPの17%、CPPの5%、CPCの21%であった。術後化学療法を受けた9人のAPP患者全員において、化学療法2コース後に早期の反応を認めた:完全奏効2人、部分奏効4人、不変3人。経過観察群の15人については、1人に再発が見られたが、現時点で全員生存中である。化学療法群においては、診断時に転位を認めた、不完全摘出後の1人が腫瘍死した。

APPの診断は組織学的に定義されるが、腫瘍増殖マーカーであるKi-67/Mib-1と、腫瘍抑制タンパクp53の陽性率中央値は、3つの亜型で増加しており、CPPよりもAPPさらにAPPよりCPCで陽性率が高かった。これは、CPTの亜型が、悪性度に応じた一般的な分類であることを示唆する。

この順序は、研究プルトコールに則って治療を受けた92人の患者の臨床成績によっても、改めて確認することができる。5年無病生存率は、39人のCPPで92%、24人のAPPで83% 、そして29人のCPCで28%であった。同様の治療成績の順序は、全106人の登録患者の無病生存率においても認められた。APPの化学療法への反応は良好であった。APPがCPPとCPCの中間に位置することは、臨床データからも示された。

コメント

稀な小児脳腫瘍である、脈絡叢腫瘍の国際多施設治療研究である、CPT-SIOP-2000 http://choroidplexustumors.com の中間報告である。本腫瘍のように希少な小児脳腫瘍の診療成績を向上させるには、国際的な共同治療研究を行うしかないが、CPT-SIOPはその成功例といえる。中央診断率の高さにも注目したい(全登録症例133中、116症例で中央診断)。

本報告は、CPT-SIOP-2000の包括的な最終報告ではない。2006年に新たに提唱された中間悪性度群非定型脈絡叢乳頭腫(atypical choroid plexus papilloma: APP, WHO Grade 2)の臨床像と組織像、さらには免疫組織染色による生物学的特性をに焦点を当てた分析が、主眼となっている。APPが臨床的にも組織学的にも、そしておそらく生物学的にも、良性腫瘍と考えられる脈絡叢乳頭腫(choroid plexus papilloma: CPP, WHO Stage1)と、明らかに悪性の脈絡叢癌(choroid plexus carcinoma: CPC, WHO Stage3)の中間に位置する、明確な亜群であることが、示された。

CPT-SIOP-2000の、主要な目的は、化学療法レジメンにおいて、カルボプラチンとシクロフォスファミドを比較することであるが、その結果はまだ明らかになっていない。しかし、ハイリスク群(完全摘出できないAPPやCPC)の治療成績は、まだまだ満足できるものでないことは、この中間報告が示している。

CPT-SIOP-2009という次の研究が始動しており、より多くの薬剤が標準治療とされる組み合わせ(エトポシド、ビンクリスチン、カルボプラチン、シクロフォスファミド)と比較される予定である。

リンク: http://bit.ly/b5waTI

2010/03/09

脳幹グリオーマのゲノム網羅的解析

Whole-Genome Profiling of Pediatric Diffuse Intrinsic Pontine Gliomas Highlights Platelet-Derived Growth Factor Receptor α and Poly (ADP-ribose) Polymerase As Potential Therapeutic Targets.



脳幹グリオーマ(びまん性中心性橋部神経膠腫)のゲノム網羅的解析は、血小板由来成長因子受容体PDGFRαおよび、ポリ(ADP-リボース)合成酵素PARP1が、治療標的である可能性を示唆する


J Clin Oncol 2010 28 (8): 1337


目的
びまん性中心性橋部神経膠腫(DIPG)は、もっとも悲惨な小児悪性腫瘍のひとつであり、効果的な治療法が存在しない。治療研究の成果が出ない主要な原因として、脳幹腫瘍の生物学的特性がテント上に発生する成人の高悪性度グリオーマと同一であろうという前提があげられる。この小児の腫瘍をより特異的に標的とした治療薬を開発するためにDIPGそのものの生物学的特性を、よく理解する必要がある。そこで、我々は欠如している知識を埋めるべく、今回始めて、一連のDIPG症例に対して、高解像度の一塩基多型(SNP)マイクロアレイによる分析を行った。

患者および方法
これまで再多数となる、11検体(9例は剖検標本、2例は治療前生検標本)が、SNPアレイ(Affymetrix 500Kまたは6.0)にハイブリダイゼーションされた。本研究は、当施設の倫理委員会で承認された。すべてのマイクロアレイ結果は、定量的PCR、FISH法、マイクロサテライト分析によって確認された。

結果
DNAコピー数異常の分析結果、DIPGでは、小児テント上高悪性度グリオーマとは異なる、頻繁に認められるコピー数異常を認めた。36パーセントのDIPGで、血小板由来成長因子受容体α遺伝子(PDGFRA, 4-18コピー)のコピー数異常を認め、全例でPDGFR-αの発現を認めた。ポリADPリボースポリメラーゼ-1(重合ADPリボース鎖をタンパク質に付加する酵素: poly (ADP-ribose) polymerase:PARP-1)の軽度のコピー数増加が3症例において認められた。遺伝子経路解析によって、ヘテロ接合性欠失(Loss of Heterozygosity: LOH)は、DNA修復経路に集中して認められることが判明した。

結論
われわれの知る限り、初めての小児DIPGにおける包括的で高解像度のゲノム解析結果である。われわれは、PDGFR経路が高頻度に関与しており、またPARP-1の増幅とともにDNAの修復経路の欠失が認められることを発見したが、このことは、この悲惨な腫瘍に対する治療標的として、生物学的にも可能性が高い2つの分子を示唆している。

コメント
現在、有効な治療法が無く、ほぼ100%致死性の脳腫瘍である、びまん性脳幹グリオーマは、その部位から摘出どころか、画像上典型的な場合は生検も禁忌となっている。治療成績が最悪でありながら、生物学的研究すら行えないという、非常に不幸な脳腫瘍であるが、熱心な研究者と献身的な患者家族の理解によって、この貴重な研究が行われた。テント上悪性グリオーマと生物学的に異なる腫瘍であることは、これまでの新薬を試す臨床試験がことごとく無効であったことを裏付けている。今後は、本研究と同様な研究を重ねて、この腫瘍の生物学的特性上、効果が期待される薬物を優先的に試すべきである。

リンク:http://bit.ly/aQjI8V