Treatment of early childhood medulloblastoma by postoperative chemotherapy and deferred radiotherapy.
術後化学療法と遅延放射線療法による若年乳幼児期髄芽腫の治療
Neuro Oncol. 2009 Apr;11(2):201-10. Epub 2008 Sep 25
要旨
3歳未満乳幼児の髄芽腫において、術後化学療法による放射線治療遅延効果を検証し、予後予測因子を調べるため、1987年から1993年にかけてHIT-SKK'87プロトコールに登録された、3歳未満乳幼児における髄芽腫を調査した。これらの患児は、術後から3歳時点または再発時に全脳全脊髄照射を受けるまでの間、全身化学療法を受けた。術後に残存腫瘍を認めた患児および、遠隔転移をみとめた患児に対しては、維持療法の前に寛解導入療法を行った。29名の患児(中央年齢1.7歳;中央観察期間12.6年)が分析可能対象となった。肉眼的転移を認めなかった患児における10年無病生存率(PFS)および生存率(OS)は、完全摘出の場合52.9%±12.1%(PFS)、58.8±11.9%(OS)、不完全摘出の場合55.6%±16.6%(PFS)、66.7%±15.7%(OS)であった。それに対して、肉眼的転移を認めた患児においては、0%(PFS)、0%(OS)であった。線維形成性(desmoplastic)または広範囲結節性(extensive nodular)の組織像を呈した9名の患児の生存率は、典型的髄芽腫像(classic medulloblastoma)を呈した20名の患児の生存率よりも有意に良好であった:10年PFS 88.9%±10.5% vs 30.0%±10.3% p=0.003, OS 88.9%±10.5% vs 40.0%±11.0% p=0.006。化学療法中に腫瘍の進行を認めた12名中11名は典型的髄芽腫であった。本プロトコールによって治療された患児の治療終了後の知能指数は、放射線療法を受けなかった、その後のプロトコールHIT-SKK'92に登録された患児よりも、低かった。HIT-SKK87'およびHIT-SKK'92の両プロトコールを合計した72名の患児において、典型的髄芽腫組織像、遠隔転移および男性が、PFSおよびOSの独立した悪化危険因子であった。生存率に関しては、線維形成性または広範囲結節性の組織像を示す若年乳幼児期髄芽腫において、首尾よく全脳全脊髄照射を遅らせることができた。線維形成性または広範囲結節性の組織像は、良好な予後に強く寄与する、独立した因子である。生存者における神経認知機能低下は防ぐため、全脳全脊髄照射を避ける治療概念が目下の問題であるが、組織学的亜分類を十分に考慮しなくてはならない。
コメント
ドイツの多施設共同臨床研究の報告。全脳全脊髄照射が髄芽腫にとって、重要な治療手段であることに疑いはない。一方で、乳幼児とくに3歳未満の患児の重要な発達段階の脳への放射線治療は、認知機能に重大な後遺症を生じることも確実である。術後に化学療法を最大限行い、放射線治療をできる限り遅延させるという戦略は、一定の生存率が得られる一方で、認知機能障害は到底許容できるものではない。髄芽腫の中にはいくつかのサブタイプが存在し、組織学的予後良好群である、線維形成性または広範囲結節性の組織型では、今後放射線療法を省略した科学療法プロトコールが試されるであろう。また、生物学的な性質が明らかになれば、より効果的で副作用の少ない治療が、髄芽腫の分子生物学的サブタイプごとにテーラーメードされる時代も近づいているといえる。良好な生存率と認知機能の両立のためには、基礎研究及び臨床研究のさらなる発展が不可欠である。
リンク: http://bit.ly/7Y0BFM
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