2010/01/26

米国がん統計から分析する、小児グリオーマの生存率および予後因子

Outcome and prognostic features in pediatric gliomas: a review of 6212 cases from the Surveillance, Epidemiology, and End Results database.

小児グリオーマの生存率および予後因子
-米国SEER統計に登録された6212症例の検討

Cancer. 2009 Dec 15;115(24):5761-70.

背景:
小児グリオーマは稀で、均一でない腫瘍群である。米国の国立がん研究所のがん統計(SEER)によって、これらの腫瘍の臨床的特徴および予後因子についての大規模な分析が可能である。

方法:
SEERに登録された、1973年から2005年の間にグリオーマと診断された20歳未満の6212人の患者のデータを、4年齢群(<1歳、1-3歳、3-5歳、5-20歳)に分けて分析した。

リンク bit.ly/6rzrNo

2010/01/20

3歳未満乳幼児における髄芽腫治療

Treatment of early childhood medulloblastoma by postoperative chemotherapy and deferred radiotherapy.

術後化学療法と遅延放射線療法による若年乳幼児期髄芽腫の治療

Neuro Oncol. 2009 Apr;11(2):201-10. Epub 2008 Sep 25

要旨
3歳未満乳幼児の髄芽腫において、術後化学療法による放射線治療遅延効果を検証し、予後予測因子を調べるため、1987年から1993年にかけてHIT-SKK'87プロトコールに登録された、3歳未満乳幼児における髄芽腫を調査した。これらの患児は、術後から3歳時点または再発時に全脳全脊髄照射を受けるまでの間、全身化学療法を受けた。術後に残存腫瘍を認めた患児および、遠隔転移をみとめた患児に対しては、維持療法の前に寛解導入療法を行った。29名の患児(中央年齢1.7歳;中央観察期間12.6年)が分析可能対象となった。肉眼的転移を認めなかった患児における10年無病生存率(PFS)および生存率(OS)は、完全摘出の場合52.9%±12.1%(PFS)、58.8±11.9%(OS)、不完全摘出の場合55.6%±16.6%(PFS)、66.7%±15.7%(OS)であった。それに対して、肉眼的転移を認めた患児においては、0%(PFS)、0%(OS)であった。線維形成性(desmoplastic)または広範囲結節性(extensive nodular)の組織像を呈した9名の患児の生存率は、典型的髄芽腫像(classic medulloblastoma)を呈した20名の患児の生存率よりも有意に良好であった:10年PFS 88.9%±10.5% vs 30.0%±10.3% p=0.003, OS 88.9%±10.5% vs 40.0%±11.0% p=0.006。化学療法中に腫瘍の進行を認めた12名中11名は典型的髄芽腫であった。本プロトコールによって治療された患児の治療終了後の知能指数は、放射線療法を受けなかった、その後のプロトコールHIT-SKK'92に登録された患児よりも、低かった。HIT-SKK87'およびHIT-SKK'92の両プロトコールを合計した72名の患児において、典型的髄芽腫組織像、遠隔転移および男性が、PFSおよびOSの独立した悪化危険因子であった。生存率に関しては、線維形成性または広範囲結節性の組織像を示す若年乳幼児期髄芽腫において、首尾よく全脳全脊髄照射を遅らせることができた。線維形成性または広範囲結節性の組織像は、良好な予後に強く寄与する、独立した因子である。生存者における神経認知機能低下は防ぐため、全脳全脊髄照射を避ける治療概念が目下の問題であるが、組織学的亜分類を十分に考慮しなくてはならない。

コメント
ドイツの多施設共同臨床研究の報告。全脳全脊髄照射が髄芽腫にとって、重要な治療手段であることに疑いはない。一方で、乳幼児とくに3歳未満の患児の重要な発達段階の脳への放射線治療は、認知機能に重大な後遺症を生じることも確実である。術後に化学療法を最大限行い、放射線治療をできる限り遅延させるという戦略は、一定の生存率が得られる一方で、認知機能障害は到底許容できるものではない。髄芽腫の中にはいくつかのサブタイプが存在し、組織学的予後良好群である、線維形成性または広範囲結節性の組織型では、今後放射線療法を省略した科学療法プロトコールが試されるであろう。また、生物学的な性質が明らかになれば、より効果的で副作用の少ない治療が、髄芽腫の分子生物学的サブタイプごとにテーラーメードされる時代も近づいているといえる。良好な生存率と認知機能の両立のためには、基礎研究及び臨床研究のさらなる発展が不可欠である。

リンク: http://bit.ly/7Y0BFM

2010/01/10

髄芽腫に対する分子標的治療

Treatment of Medulloblastoma with Hedgehog Pathway Inhibitor GDC-0449

ヘッジホッグ経路阻害薬GDC-00449による髄芽腫の治療: 一例報告

N Eng J Med. 2009 Sep 17;361(12):1173-8. Epub 2009 Sep 2.

要旨
髄芽腫は、小児においてもっとも頻度の高い悪性脳腫瘍である。ヘッジホッグシグナル経路の異常な活性化が、一部の髄芽腫の発生に関与していると、強く示唆されている。複数の治療法に抵抗性での転移性髄芽腫の26歳男性患者に対し、新しいヘッジホッグ経路阻害薬GDC-00449による治療が行われた。一過性ではあるが、急速な腫瘍の縮小と症状の緩和効果がみられた。本治療前に採取された腫瘍検体の分子生物学的検査結果から、ヘッジホッグシグナル伝達の重要な負の制御因子である、patched homolog 1 (PTCH1) 遺伝子における、ヘテロ接合性の消失(Loss of heterozygosity: LOH)と、遺伝子変異が腫瘍細胞で起こっていたことが示唆された。

コメント
髄芽腫のゲノミクス解析により、髄芽腫の分子遺伝生物学的に複数のサブタイプに分類され、サブタイプの臨床的な性質や治療への反応性なども、分析が進んできている。分子学的サブタイプ分類の最終目的は、腫瘍の性質に合わせた、最適のオーダーメード治療法を提供することである。分子標的治療薬の、オーダーメードがん治療への応用が期待されている。髄芽腫において、ヘッジホッグシグナル経路の異常な活性化を示すサブタイプが存在することは、複数の報告から明らかになっている。今回、成人症例における臨床試験外での例外的使用という条件ではあるが、ヘッジホッグシグナル経路に対する分子標的が髄芽腫に対して、一定の効果を示したことは、手術、放射線治療、細胞障害性化学療法による集学的治療に抵抗性を示したり、治療後再発をしたケースへの有望な治療法となる可能性を示したといえる。また、一定の長期生存および治癒率を見込める一方で、非常に副作用と晩期障害が強い現在の標準治療に取って代わる、毒性の低い治療法となる可能性も秘めている。

リンク:http://bit.ly/5th9Ad

2010/01/09

小児がん長期生存者に発症した、2次性原発脳脊髄腫瘍

Survival After Second Primary Neoplasms of the Brain or Spinal Cord in Survivors of Childhood Cancer: Results From the British Childhood Cancer Survivor Study

小児がん長期生存者に発症した、2次性原発脳脊髄腫瘍の生存率:英国小児がん長期生存者研究からの報告

J Clin Oncol. 2009 Dec 1;27(34):5781-7. Epub 2009 Sep 28.

要旨

目的: 脳脊髄腫瘍の生存率は低く、脳腫瘍の種類、年齢、悪性度、治療、治療前要因、部位、腫瘍の大きさなどに左右される。すべての種類の二次性原発脳脊髄腫瘍の生存率と、それに寄与する因子について調査した。

対象/方法: 英国小児がん長期生存者研究は、17,980人の5年以上の長期生存者の人口ベースの長期フォローアップ研究である。小児がん長期生存後に発症した二次性原発脳脊髄腫瘍患者の、5年間相対生存率を計算し、多変量COX回帰分析によって生存率寄与因子を求めた。

結果: 合計で247名の二次性原発脳脊髄腫瘍を発症した若年成人患者が存在した。うち137名が髄膜腫、73名がグリオーマであった。髄膜腫発症後の5年生存率は男女に違いがなかった(男性84.0%; 95%CI 72.6-91.1%、女性81.7%; 95%CI 69.9-33.7%)。グリオーマでは男女合わせた生存率が19.5% (95%CI 8.6-33.7%)であった。多変量分析によって治療を受けた年代(P=0.04)、悪性度(P=0.03)、遺伝的リスク(P=0.03)が髄膜腫発症後の生存率の寄与因子であった。一方グリオーマでは、悪性度が有意に生存率に寄与した(P<0.001)。

結論: 我々の調査結果は、若年成人における二次性原発グリオーマの生存率が低いことを明らかにした。一方、二次性原発髄膜腫の生存率は良好であった。我々の調査は、二次性原発脳腫瘍の発症リスクの高い小児がん長期生存者、特に小児急性リンパ性白血病または小児脳腫瘍患者に対する、MRIスクリーニングの臨床における必要性を示唆する。

コメント:小児がんの治療成績が向上し、長期生存者が増加しているが、晩期障害は大きな問題である。遺伝的素因と発癌リスクのある治療という、ふたつの大きな要因がある小児がん患者の二次がん発生リスクは高い。なかでも、白血病の中枢神経再発予防のための全脳照射を受けた生存者と原発脳腫瘍の治療のために放射線療法を受けた生存者において、二次性原発脳腫瘍のリスクは高い。本研究では、約18000人が登録された、長期生存者データベースから、少なくとも247人の二次性原発脳脊髄腫瘍が発生したことになる。二次性グリオーマの予後は、同世代で発症する一次性グリオーマより悪い。元々の遺伝的素因、限られた治療オプションなどがその原因であろう。髄膜種に関しては、発症率は高いものの、生存率は一次性腫瘍と大きく変わらなかった。最近のプロトコールおいては、白血病の中枢神経再発予防としての全脳照射を、回避するようになったので、白血病生存後の二次性原発脳腫瘍の発生数は減少すると思われるが、多くの悪性脳腫瘍治療において、放射線療法は不可欠であり、今後も二次性原発脳腫瘍ha発生する。長期にわたるMRIスクリーニングの有用性は検討に値する。一方で、低悪性度グリオーマにおいては、化学療法や手術療法を最大限活用して、できる限り放射線療法を回避する努力が必要である。

リンク: http://bit.ly/4FCCgY