2009/11/23

小児再発上衣腫:英国からの報告

Relapsed intracranial ependymoma in children in the UK: Patterns of relapse, survival and therapeutic outcome

英国における小児再発上衣腫の状況:再発のパターン、生存率、治療成績

Eur J Cancer. 2009 Jul;45(10):1815-23. Epub 2009 May 7

要旨

小児再発上衣腫の治療は、非常に難しい。1985年から2002年の間に英国において治療された、小児再発上衣腫、108症例の臨床、病理、治療データを解析し、生存率に関与する因子を検討した。

再発部位は、多くの場合初発時と同部位であった(84%)。全体で25%の患者で、転移再発が見られた。

再発時に摘出術が試みられたのは、わずか55%であった。

乳児(3歳未満)の再発症例のうち、66%で放射線治療が行われた。年長児(3歳以上)においては、50%の症例において、放射線再照射が行われた。初発児3歳未満群と、3歳以上群の5年生存率はそれぞれ、24%と27%であった。初発時3歳未満群において、多変量因子解析の結果、独立して生存率に寄与したのは、摘出術(p=0.01)と放射線治療(p=0.001)であった。

初発時3歳以上群では、初発時の放射線治療の有無に関係なく、再発時の放射線療法(含む、再照射)が、予後の改善に寄与した(p=0.05)。

コメント

英国における、再発小児上衣腫の治療成績の報告。全国統一した治療方針で治療されており、非常に信頼できるデータといえる。再発上衣腫の予後は良くないが、従来通り、再発時の積極的な手術の有用性が確認された。また、初発時未照射の年少児群に限らず、初発時に照射済みの年長児群においても、リスクを覚悟の上、再照射した群の生存率が、独立した予後寄与因子であることは、重要である。CTを用いたシミュレーションや原体照射などによる照射技術の向上によって、これまでタブーであった再放射線照射は、再発悪性脳腫瘍症例における、最後の頼みの治療法として、確立されつつある。化学療法が、再発症例においても、生存に寄与しないことは、またしても確認された。最近の上衣腫の基礎研究の進歩派目覚しいものがあり、従来の抗がん剤とは異なる、より効果的で特異的な薬剤の開発がまたれる。

リンク:http://bit.ly/6AKE4Z

2009/11/11

再発髄芽腫に対する大量化学療法

High-dose chemotherapy and autologous hematopoietic progenitor cell rescue in children with recurrent medulloblastoma and supratentorial primitive neuroectodermal tumors: the impact of prior radiotherapy on outcome.

小児再発髄芽腫およびテント上PNETに対する、自家造血幹細胞移植を伴った大量化学療法 :再発前の放射線療法の有無のもつ意義

Cancer. 2009 Jul 1;115(13):2956-63.

背景

小児再発髄芽腫およびテント上PNETにおける、骨髄破壊的大量化学療法の役割は、議論のあるところであり、特に、脳脊髄照射治療後に再発した症例において、問題となる。

方法

ロサンジェルス小児病院に、通常化学療法及び骨髄破壊的化学療法のために紹介となった、髄芽腫およびテント上PNETを再発した患者について、後方視的に予後を調査した。

結果

合計33人の患者が骨髄破壊的化学療法のために紹介となった。うち14人は移植前に発生した有害事象のため、移植に至らなかった。19人(6人が再発前の放射線療法なし、13人があり)が移植を受けた。前処置はthiotepaが骨格となり、一回移植または、連続した複数回の移植が行われた。3年無病生存率は再発前の放射線療法を受けなかった患者群と受けた群で、それぞれ83%±15%、20%±12%であった。(P=0.04)放射線療法を再発前に受けなかった患者のうち1人が移植関連毒性で死亡し、4人が無病生存中である。再発前に放射線治療を受けた患者のうち9人に、移植関連毒性による死亡(4人)、または腫瘍再発(6人)がみられた。(うち1人は両方がみられた)放射線療法から一年以内の骨髄破壊的化学療法が、移植関連毒性死亡を予測する因子であり(p=0.03)、また診断時の髄空内転移および、移植後最初の化学療法への反応性の悪さが、移植後再発を予測する因子であった(p=0.08)。

結論

骨髄破壊的thiotepa中心の大量化学療法によって、再発前に放射線療法を受けておらず、化学療法に反応する患者の多くを治癒することができた。脳脊髄放射線療法後に再発した患者の予後は不良であるが、再発時に予後良好因子を持った患者の治癒は、決して不可能ではない。


コメント

ロサンジェルス小児病院単独成績の報告。再発髄芽腫の治療は、単独施設からの報告がほとんどで、症例が不均一であったり、治療法がまちまちで、比較検討が難しい。そのなかでも、末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法は、数少ない有望な治療法であることは、数多くの報告から明らかである。しかし、治療関連毒性の強さを考えると、症例の選択は非常に重要である。本報告は、大量化学療法によって治癒可能な患者群を示唆しており、注目に値する。著者らが考察の中で述べているなかで、再発患者のうち、一部しか移植部門に紹介がなかった点や、紹介があったものの、移植までこぎつけなかった症例が多いことは、今回の予後分析の対象となった患者が、かなり選択された症例のみであることは、注意しておかなければならない。今後、最適な移植適応と移植レジメンを考える上で、メタアナリシスによる多症例の検討は必須であり、非常に困難ではあるが、再発症例の他施設共同前向き研究が、必要な時期に来ているといえよう。

PubMedリンク:
http://bit.ly/18zTrZ

2009/11/04

小児低悪性度グリオーマに対する、放射線療法の晩期障害

Late effects of conformal radiation therapy for pediatric patients with low-grade glioma: prospective evaluation of cognitive, endocrine, and hearing deficits.

小児低悪性度グリオーマに対する、原体照射放射線療法の晩期障害:認知、内分泌および聴力障害の前方視的評価

J Clin Oncol. 2009 Aug 1;27(22):3691-7. Epub 2009 Jul 6.

目的

原体照射放射線療法を受けた、低悪性度グリオーマ小児患者における、晩期障害を検討するため、前方視的調査を行った。

対象と方法

1997年8月から2006年8月にかけて、78人の小児低悪性度グリオーマ患者に対して(平均年齢9.7歳、標準偏差±4.4歳)、10mmの臨床標的体積マージンを用いて、54Gyの原体放射線照射を行った。腫瘍の発生部位は間脳(58人)、大脳半球(3人)、小脳(17人)であった。認知、内分泌および聴力障害を発見するために、治療前と治療後に連続して定期的な評価を行った。臨床的要因および、放射線照射を受けた特定の正常組織の体積と、障害の関連を検討した。

結果

原体放射線照射後5年間の、認知機能への影響は、患児の年齢、1型神経線維腫症の有無、腫瘍の部位および体積、手術による摘出度合い、そして放射線照射量との間に、関連が見られた。年齢による影響は、照射量による影響よりも大きかった;5歳未満の患児において認知機能が最も低下した。放射線治療開始前に、検査を行った患児の24%に成長ホルモン分泌異常が、12%に早発思春期が認められた。治療後10年間に各種ホルモン療法が必要となった累積確率は以下の通り:成長ホルモン補充48.9%、甲状腺ホルモン補充64.0%、糖質コルチコイド補充療法19.2%、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログ療法34.2%。いずれかの音域において、治療後10年間に聴力障害が発生する累累積確率とその標準偏差は、5.7%±3.3%であった。

結論

我々の知る限り、本研究は、放射線療法を受けた小児低悪性度グリオーマ患児を前方視的に観察した、最も大規模な研究である。副作用は限定的で、多くの患者において予想範囲内であった。しかし、本研究によって、年少児において放射線療法をできるだけ遅らせるべきであるということを再確認した。また、正常脳への照射を抑えることによる患者利益も明らかにした。

コメント

昨日紹介したSt.Jude小児病院放射線科からの第2報である。放射線療法は、低悪性度グリオーマに対する、最も有効な非外科的治療であるが、一方で長期生存が見込まれる低悪性度グリオーマ小児患者にとって、その晩期障害は重大な問題である。マージンを少なくし正常な脳への照射を最小化し、治療前と治療後に、詳細に長期にわたるフォローアップと評価を行った、非常に貴重な研究結果である。認知機能低下は、患児全体で見れば、治療前IQ98から治療後IQ90と低下は限定的であったが、低年齢でになればなるほど認知機能低下は著しく、これまでの知見を裏付けた。また、本研究がユニークであるのは、1型神経線維腫症の有無や、腫瘍の部位、手術による摘出度合いなども、認知機能障害に影響があることを明らかにしたことであろう。小児低悪性度グリオーマは、非常に多様な臨床像と経過を示し、治療法の選択は非常に難しいが、本研究の結果を参考に、個々の患者の晩期障害のリスクを詳細に評価し、最善の治療法選択を行いたい。血管障害については第1報に詳しい。

PubMedリンク http://bit.ly/1Alsw3

2009/11/03

低悪性度グリオーマに対する放射線療法

Phase II Trial of Conformal Radiation Therapy for Pediatric Low-Grade Glioma
小児低悪性度グリオーマに対する原体照射放射線療法の第II相臨床試験

J Clin Oncol. 2009 Aug 1;27(22):3598-604

目的
小児低悪性度グリオーマ、特に年少児に対する、放射線療法の使用に対して賛否が分かれる。10mmの臨床標的体積(clinical target volume:CTV)のマージンを用いて、原体照射放射線療法による腫瘍コントロール効果を判定すべく、第II相臨床試験を行った。

対象と方法
1997年8月から2006年8月にかけて、中間年齢8.9歳(2.2-19.8歳)の低悪性度グリオーマ患児78人に対し、54Gyの放射線量を、10mmのCTVマージンを用いて照射し、計画的にMRIによる評価を行った。腫瘍の発生部位は間脳(58人)、大脳半球(3人)、小脳(17人)であった。67人がWHOグレード1の腫瘍、25人が過去に化学療法を受けており、13人が神経線維腫症1型であった。

結果
89ヶ月の中央観察期間中、13人が腫瘍の進行を認めた。うち、1人は照射野辺縁部位における進行、8人が局所進行、4人が遠隔転移であった。5年および10年の平均無病生存率と標準偏差はそれぞれ、87.4% ± 4.4%、74.3% ± 15.4%であった。また5年および10年の平均全生存率と標準偏差はそれぞれ、98.5% ± 1.6%、95.9% ± 5.8%であった。局所進行の5年および10年の平均通算確率と標準偏差はそれぞれ、8.7% ± 3.5%、16.4% ± 5.4%であった。血管障害の治療後6年時点での平均通算確率と標準偏差は、4.79% ± 2.73%、あり、この確率は放射線治療時に5歳未満であった患児で高かった(P = 0.0105)。

結論
今回、放射線療法を受けた低悪性度グリオーマ小児患者の大規模な前向き臨床試験によって、10mmのCTVマージンを用いても、腫瘍のコントロール効果は落ちないことが示された。本結果によって、年少児への放射線照射は、血管障害のリスクを下げる意味でも、出来るだけ遅らせるべきであることを示唆している。

コメント
St.Jude小児病院の放射線科からの報告である。摘出が困難、または摘出に神経的障害の可能性が高い、低悪性度グリオーマの治療に関しては、患者の年齢が低い場合(明確な基準はないが、8-10歳未満は低年齢と考える)まずは化学療法で腫瘍の進行を出来るだけ遅らせ、コントロール不良のときに、放射線療法を行うというのが、現在のスタンダードである。また、手術で完全にとりきれなかった場合も、追加治療をあせらず、残存腫瘍が進行するか見極めるために経過観察を行うという方法がある。小児の脳への放射線療法による障害は常に懸念されるが、腫瘍への照射量を最大化し、腫瘍以外への照射を極力抑える、現代の原体照射法等を用いれば、十分な腫瘍コントロールが得られることが、今回の報告で分かった。しかし、中長期的な効果と副作用、とくに短期的にも血管障害の頻度は高く、さらに今回全く評価されていないのが、認知機能障害である。非常に貴重な多数症例の研究であり、長期フォローアップの経過報告を待ちたい。

PubMedへのリンク http://bit.ly/3ON4VD