統合的ゲノミクス分析によって同定された、PDGFRA,、IDH1、EGFRおよびNF1遺伝子異常を特徴として持つ、臨床的にも有用な膠芽腫の亜型
Cancer Cell. 2010 Jan 19;17(1):98-110.
要旨
多形性膠芽腫(GBM)細胞において頻繁に認められるゲノム異常の一覧を、癌ゲノムアトラスネットワーク(The Cancer Genome Atlas Network)が、最近報告した。我々は、遺伝子発現に基づいた強力な方法によって、GBMを前駆ニューロン系(Proneural)、ニューロン系(Neural)、古典系(Classical)、間葉系(Mesenchymal)に分子生物学的に分類した。さらに、複数の種類のゲノミクスデータを統合し、がん細胞の遺伝子変異とDNAのコピー数変化のパターンを確立した。EGFR、NF1、PDGFRA/IDH1遺伝子の異常と発現パターンによって、それぞれ古典系、間葉系、前駆ニューロン系の各亜型が規定される。正常脳組織の遺伝子発現の特徴から、GBM亜型と各経組織系統との強い関連が示唆された。さらに、より強化された治療法に対する反応は、亜型ごとによって異なり、そのような治療は、古典系でもっとも有益である一方、前駆ニューロン系では有益性をみとめなかった。我々の研究によって、GBMの分子生物学的層別化のために、ゲノミクス(遺伝子構造の網羅的解析)とトランスクリプトミクス(遺伝子発現の網羅的解析)を統合する、今後の研究に重要な示唆を与える基盤がつくられた。
意義
本研究は、これまでのGBM分類研究を進展させた。既知の亜型とNF1、PDGFRA/IDH1という特有の遺伝子異常を関連付けた。また、EGFR異常と正常p53を特徴とする亜型を含めた、2つの新たな亜型を同定した。さらに、亜型は組織発生学的な特徴を有し、最近のマウスによる研究結果とあわせて、腫瘍の起源となる別の細胞の存在を示唆している。これらをあわせると、本件急は標的治療の研究の基盤を気づいたといえる。テモゾロミドと放射線療法による、膠芽腫の一般的となった治療は、生存率の有意な増加ももたらした。分析結果によると、強力な治療による、生存率の改善は亜型によって差があり、古典系と間葉系でみられる有意な死亡までの期間の延長効果は、前駆ニューロン系では認められない。
コメント
複数のゲノミクスを統合的に分析し、より正確な分子生物学的分類を行い、さらに生物学的な特徴を見出して、あらたな治療に結びつける試みは、現代の癌研究のメジャーな手法として定着した。本研究は、成人GBMを対象にした研究であるが、小児のハイグレードグリオーマへの応用は十分に可能である。各亜系に特徴的な遺伝子異常や発生学的背景から、標的治療の臨床試験を選択された患者群で行えば、標的薬を効率よくスクリーニングし、臨床現場に投入することが可能になる。一方で、小児脳腫瘍な稀な脳腫瘍をさらに細分化していくと、各亜型の患者発生数が非常に少なくなり、単一施設や小規模な共同研究では、臨床試験が困難になるという懸念がある。小児がんの分子生物学的分類の研究を進める一方で、国際的な超多施設共同研究の枠組みを、構築していかなければ、せっかくの知見が臨床に応用されないということになる。